
イギリスを代表する経済学者の一人であるポール・クルーグマンが提唱した、「新しい経済学」。この書は、従来の経済学の枠組みを超えた、斬新な視点で現代社会の複雑な経済現象を分析しています。
20世紀後半以降、グローバリゼーションや技術革新といった変化が加速する中で、古典的な経済理論では説明できない現実の問題が多く浮き彫りになってきました。クルーグマンは、こうした課題に挑むべく、「新しい経済学」を構築し、その中心となる概念として「経済地理学」を提示しました。
経済地理学とは、企業の立地や産業構造を地理的な要因と結びつけて分析する学問です。従来の経済学では無視されがちだった、都市の規模や交通網、地域間の競争などの要素を重視することで、現実世界の経済活動をより正確に捉えることができるようになります。
複雑な世界を地図で解き明かす:
「新しい経済学」では、経済地理学を用いて、以下のような問題について深く考察しています。
- なぜ一部の都市は急速に成長する一方で、他の都市は停滞してしまうのか?
クルーグマンは、都市の成長には「外部性」と呼ばれる要因が重要であると指摘します。外部性とは、ある企業の活動が他の企業にも良い影響を与える現象を指します。例えば、特定の産業が集積することで、技術革新や人材育成が促進され、結果として地域全体の経済活性化につながります。
- グローバリゼーションはなぜ不平等を生み出すのか?
グローバリゼーションによって、企業は世界中どこでも生産活動を行うことができるようになりました。しかし、クルーグマンは、この現象が必ずしもすべての国や人々に恩恵をもたらすとは限らないと警鐘を鳴らしています。実際には、先進国企業が発展途上国に生産拠点を移転することで、先進国の雇用が失われる一方、発展途上国の労働者が低賃金で過酷な労働環境に置かれるケースも増えています。
- 技術革新はどのように社会を変えていくのか?
情報通信技術の進歩によって、人々はより簡単に情報を共有し、世界中の人々とつながることができるようになりました。クルーグマンは、この変化が経済活動だけでなく、社会構造や文化にも大きな影響を与えるだろうと予測しています。
読み進めるほどに奥深い:
「新しい経済学」は、経済学の専門知識を必要とする難解な内容もありますが、クルーグマンの筆致は明快で、読みやすい文章で書かれています。また、豊富な図表や例を使って解説しているため、経済学の初心者の方でも理解しやすくなっています。
本書は、単なる経済学書にとどまらず、現代社会の課題を深く考えるきっかけを与えてくれる一冊です。グローバリゼーションや技術革新といった変化が加速する中で、私たち人類はどこへ向かうのか?「新しい経済学」を読み終えた後には、そんな問いへの答えを探そうとする気持ちに駆られることでしょう。
詳細情報:
タイトル | 新しい経済学 |
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作者 | ポール・クルーグマン |
出版社 | 講談社 |
発売日 | 1996年3月 |
ページ数 | 416ページ |
ISBN | 978-4061592264 |
読者へのメッセージ:
経済学に興味がある方、現代社会の課題について考えてみたい方におすすめの一冊です。複雑な問題にも果敢に挑戦し、新しい視点で世界を解き明かそうとするクルーグマンの姿勢は、私たち自身の思考を刺激してくれるはずです。